世界観
静けさを売る街、湊響
音が、そのまま災いになる時代。人々は静けさを求め、切り詰めた音とともに暮らしている。その街の底で、少女たちの声をめぐる静かな選択が積み重なっていく。
湊響(みなとひびき)は、静けさを売る近未来の静音都市だ。感情の臨界で“響き”が崩れ、災いへと変わる音響災害〈鳴禍(めいか)〉が知られてから、人々は音を管理し、静寂に価値を置くようになった。道はやわらかく音を吸い、看板は光でささやき、人はできるだけ声を張らずに暮らす。静けさは安心であり、同時に、少しの緊張でもある。
この街には、声に力を宿した少女たち——〈謳精(おうせい)〉がいる。彼女たちの力は、共鳴であったり、追憶であったり、不協和であったりと、一人ひとり違うかたちをしている。その力は災いの種にもなりうるが、それは彼女たちが危険だからではない。ただ、うまく受けとめられなかっただけのことも多い。力に飲まれた少女は、声を失い、表情を失い、社会から静かに消えていく——〈失声(しっせい)〉。それは暴走ではなく、忘却に近い喪失だ。
だから街には、二つのまなざしがある。ひとつは、少女の声を“資源”として管理し、利用しようとする者たち。もうひとつは、少女のかたわらに立ち、その響きを受けとめようとする者たち。前者は少女を殲滅したいわけではなく、後者は秘密の英雄団というわけでもない。どちらも、静けさの時代をどう生きるかという問いへの、それぞれの答えにすぎない。あなたが立つのは、その狭間だ。
用語集
物語の底に流れる、いくつかの言葉。読み進めるほど、その意味は少しずつ変わっていく。
- 鳴禍 めいか
- 感情の臨界で“響き”が崩れる音響災害。単一の巨大災害ではなく、街の各所で散発的に起こる。
- 発振点 はっしんてん
- 鳴禍の起点。共鳴やハウリングといった音響現象に由来する概念で、そこから響きが崩れ始める。
- 謳精 おうせい
- 声に力を宿した少女たち。力の形は一人ひとり異なり、同じ響きを持つ者はいない。
- 同調 どうちょう
- 主人公が後天的に得た、少女の“こえ”に合わせる稀な才能。彼だけの専売というわけではない。
- 共奏 きょうそう
- 力を封じるのではなく“受けとめる”こと。恋愛成就の一本道に限らず、ルートごとに漸進的で、多くのかたちがある。
- 失声 しっせい
- 力に飲まれ、声や表情が薄れ、社会から静かに消えていく喪失。凶暴化ではなく、忘れられていくこと。
- 湊響 みなとひびき
- 静けさを売る近未来の静音都市。この物語の舞台となる街。
- リラ財団 リラざいだん
- 共生を支える公的な相談窓口。秘密組織でも、事態を裏で操る司令塔でもない。
- 粛声機関 しゅくせいきかん
- 少女の声を“資源”として管理・利用しようとする企業/管理派。少女の殲滅を目的としているわけではない。
声をめぐる、二つのまなざし
対立する組織というより、静けさの時代への異なる答え。どちらも、正しさの一部を握っている。
リラ財団
謳精との共生を支える、公的な相談窓口。秘密組織でも、事態を裏で操る司令塔でもない。声に悩む少女と、その周囲に、静かに手を差し伸べる。
粛声機関
少女の声を“資源”として管理・利用しようとする企業/管理派。殲滅が目的ではなく、静けさの秩序を守ろうとするがゆえに、少女たちと衝突する。